1977年にアメリカで公開された『スター・ウォーズ』は、黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』『フラッシュ・ゴードン』など数々の映画からインスピレーションを受けて作られています。有名なイギリスの戦記映画である『暁の出撃』(1955年・英)は、クライマックスのデス・スター攻撃戦の元ネタとしてオマージュされていることは有名な話です。では、実際に、どのように『スター・ウォーズ』のデス・スター攻撃シーンに影響を与えているのか、『暁の出撃』のクライマックスのダム攻撃シーンと、デス・スター攻撃シーンを比較してみました。
基本情報-映画『暁の出撃』(1955年・英)のあらすじ
あらすじ
第二次世界大戦中、イギリスは連日ドイツ軍からの空襲に悩まされていた。イギリスのバーンズ・ウォリス博士(マイケル・レッドグレーヴ)は、ドイツ国内のダムを破壊し、停電と洪水によってドイツの軍需産業を担うルールエ業地帯に打撃を与える作戦を立案する。作戦遂行のためには大型の爆弾が必要でしたが、そのような爆弾はなく、またそのような大型爆弾を搭載できる爆撃機もない。そこで、小さめの爆弾をダムに密着した状態で爆発させることを発案する。だが、これには低空から爆弾を投下し、水面に跳躍させて(いわば、水切りのように爆弾を水面でスキップさせる)、ダムの壁にぶつけて破壊するしかない。このほとんど不可能に近いと思われる作戦で、軍首脳部も成功の可否を疑っていたが、ウォリス博士は実験を繰り返しながら爆弾設計をしていく。また、ギブソン中佐もウォリス博士の成功を信じ、作戦成功の鍵となる夜間の超低空飛行の訓練を続けていく。そして、作戦実行当日、ギブスン中佐(リチャード・トッド)指揮下、19機の特別爆撃隊は、目標のダムめがけて作戦を実行しに飛び立つ。
解説
この『暁の出撃』は1955年のイギリスの航空戦記映画で、原題はThe Dam Busters、ダム・バスターズといいます。ダムというのは貯水のためのダムのことで、バスターズというのは破壊する人という意味、すなわち、原題は「ダム爆撃隊」という意味です。
この映画には原作があり、原作はポール・ブリックヒルの同名小説『暁の出撃』と、後述するチャスタイズ作戦を指揮したガイ・ギブソン空軍中佐が書いた『Enemy Coast Ahead』です。ちなみに、ポール・ブリックヒルはあの有名な1963年のアメリカ映画『大脱走』の原作も書いているオーストラリアの作家です。
このダム攻撃作戦は、「チャスタイズ作戦」と呼ばれ、1943年に実際にイギリス空軍によって実行された作戦です。ギブソン空軍中佐率いる第617飛行中隊に所属する19機のアブロ ランカスター(イギリス空軍の爆撃機)がドイツにある4つのダムに攻撃をかけました。出撃した19機のうち10機が撃墜されるものの、目標を達成し、ドイツの軍需工場に打撃を与えました。これによって、この第617飛行中隊は「ダム・バスターズ(ダム攻撃隊)」と呼ばれるのです。原題はこの名称から来ています。
『暁の出撃』と『スター・ウォーズ』の類似点
類似点その1:作戦計画
デス・スターの攻撃計画は、原子炉に直結しているシャフトの中へ魚雷を発射し、原子炉を爆発させることで連鎖反応を引き起こしデス・スターを破壊する、というものでした。実は、この攻撃計画自体が『暁の出撃』でのダムの攻撃の考え方そのままである。『暁の出撃』で、バーンズ・ウォリス博士は、ダムの外壁に直面した底で爆弾を爆発させることで、衝撃波を発生させることが可能であり、これによってダムを破壊できると説く。
攻撃目標の底で爆弾を爆発させ、その衝撃波による連鎖反応で、巨大な攻撃対象を破壊するという考え方が踏襲されている。 攻撃目標が小さく困難な任務である点が主張される点も同じである。
『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(1977年)
ジャン・ドドンナ将軍:「攻撃目標の直径はたった2メートル。余分な熱を逃がすための排気口で大排気口の下にある。ここから伸びるシャフトが原子炉に直結しており、これを爆破すれば連鎖反応を起こし、デス・スターは一瞬のうちに宇宙の塵となる。」
『暁の出撃』(1955年)
バーンズ・ウォリス博士:「12000mから10トンの爆弾を落として底で爆発させると地震のような衝撃波になります。許容誤差は15メートル。」
類似点その2:「なんてでかいステーションだ・・・」
『暁の出撃』の中で、ダム攻撃隊が目標のダムを確認した時、攻撃隊のパイロットの一人がダムの大きさに驚く。これは『スター・ウォーズ』の中で、レッド中隊2号機のウェッジ・アンティリーズが、デス・スターを見て巨大さに驚くあの有名な台詞の元ネタになっている。
『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(1977年)
レッド中隊2号機(ウェッジ):「なんてでかいステーションだ・・・」
- Look at the size of that thing !
『暁の出撃』(1955年)
「あんな大きなダムを壊せるのか!?」
- My goodness. It's... It's big, isn't it? Can we really break that ?
類似点その3:敵の砲塔の数を確認する攻撃隊
突入する攻撃隊を敵の砲台からの対空射撃が襲う。敵の砲塔の数を確認する攻撃隊のギブソン中佐。「スター・ウォーズ」の中でも、ゴールド中隊隊長(ゴールド・リーダー)が5号機に向かって砲塔の数を問う。台詞もほぼ一緒である。
『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(1977年)
ゴールド中隊隊長機:「敵の砲門は何門くらいだ?」
- How many guns do you think, Gold Five.
ゴール中隊5号機 :「およそ20門。要塞の表面とタワーの上です」
- I'd say about twenty guns. Some on the surface, some on the towers.
『暁の出撃』(1955年)
ギブソン中佐(隊長機):「トレバー 敵の高射砲は何門くらいある?」
- How many guns do you think there are, Trevor ?
トレバー :「およそ10門。陸地と塔の両方に」
- I'd say there are about ten guns - some in the field, and some in the tower.
類似点その4:隊長機からの攻撃準備の確認コール
攻撃準備に入る前に、レッド中隊長から各機へ、準備よしの確認コールをする。
『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(1977年)
レッド中隊隊長機:「全機 報告せよ」
- All wings, report in.
レッド中隊10号機:「10号機、準備よし」
- Red Ten, standing by.
レッド中隊7号機:「7号機、準備よし」(スピーカーからの音声のみ)
- Red Seven, standing by.
レッド中隊3号機:「3号機、準備よし」
- Red Three, standing by.
以下、レッド中隊5号機のルークまで準備よしの報告をする。
『暁の出撃』(1955年)
ギブソン中佐(隊長機):「P ポプシー応答せよ」
- "P for Popsie", are you there?
マーティン中尉:「はい 隊長」
- OK, leader.
ギブソン中佐(隊長機):「A アップル?」
- Hello, "M Mother" are you there ?
ホップグッド中尉:「はい 隊長」
- I'm here, Leader.
以下、同様に5機すべてが隊長機に報告する。
類似点その5:攻撃開始
『スター・ウォーズ』では、レッド中隊の全機報告の確認のあと、ゴールド中隊が攻撃開始の合図を送り、突入を開始する。
『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(1977年)
ゴールド中隊隊長機:「これよりターゲットの攻撃にうつる」
- We're starting out the attack run.
『暁の出撃』(1955年)
ギブソン中佐(隊長機):「攻撃を始める」
- I'm going to attack.
ちなみに、攻撃に際して砲塔からの攻撃を引き付けて、攻撃隊を援護する際のレッド中隊長の台詞も、『暁の出撃』にオリジナルがある。
レッド中隊隊長機:「我々は先にとびこんでレーザー砲を引き付ける」
- I'm going to cut across the axis and try and draw their fire.
ギブソン中佐(隊長機):「私が先に飛んで囮になる」
- I'll fly across the dam to draw the flak off you.
類似点その6:隊長機の攻撃と失敗
隊長機が最初の攻撃をかけるが目標破壊に至らず失敗する。この攻撃のシーケンスは両方の映画で全く同じである。
『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(1977年)
レッド中隊隊長機が「攻撃をかけろ」と指令を受けて、トレンチへ突入する。前方からの対空砲火を潜り抜けて目標地点へむかう。照準器を覗きながら目標地点に迫る。後方から敵戦闘機が迫る中、目標地点で見事魚雷を発射。だが魚雷は表面で爆発しただけで、デス・スター破壊には至らず、攻撃に失敗する。
前方からの激しい対空砲火に突入していく。
照準器で攻撃目標をロックする。
魚雷を発射。トリガーを引くレッド・リーダーの手のアップ。
狭いトレンチを進んでいく魚雷。
『暁の出撃』(1955年)
ギブソン大佐の隊長機が「攻撃を開始する」との合図で、ダムのある湖の水面すれすれを飛行、ダム表面に向かって突入する。前方からダムの上にある砲塔からの対空射撃が襲う。高さと速度を維持しながら、突入していく。目標との距離を計って、爆弾を投下。だが、ダムには命中したが表面で爆発しただけで、ダムを決壊させるには至らず、攻撃は失敗する。
ダムからの激しい砲撃の弾幕に突入していく。
照準器で目標を定める。
爆弾を投下。トリガーを引く操縦士の手のアップ。
水面を跳躍しながらすれすれにダムの壁に向かって進む爆弾
ダムの表面に命中。破壊したかと思ったが、表面で爆発しただけ。隊長機の1回目の攻撃は失敗する。
類似点その7:被弾、撃墜その1-攻撃目標の爆発に巻き込まれ墜落
攻撃の最中、攻撃機の一機が攻撃対象の爆発に巻き込まれる。友軍機の無線に対して「大丈夫だ!」と答えるものの、その直後に爆発、墜落する。
『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(1977年)
レッド中隊6号機ポーキンスは、デス・スター表面の砲塔を攻撃した後、被弾。レッド中隊3号機のビックスから「上昇しろ!」と言われ「大丈夫だ!」と答えるが、間に合わず爆発、撃墜される。
デス・スター表面の砲塔を攻撃するビックスとポーキンス
直後ポーキンスに問題発生。「大丈夫か?!上昇しろ!」と問うビックスに「大丈夫だ!」と答えたポーキンスだったが・・・
その直後に機体は爆発、炎上。
『暁の出撃』(1955年)
ダムへの攻撃をかけた機が、その爆発に巻き込まれる。「大丈夫か?」と聞く隊長機に対して「おそらく大丈夫だ・・」と答えるが、その直後、墜落、炎上してしまう。
ダムへの攻撃をかけるが、距離が近すぎ爆発に巻き込まれる
ギブソン中佐が「大丈夫か?」と問う。「隊長 大丈夫だと思いますが・・」と応答したのは良かったが・・・
その直後に、機体が爆発、墜落する。
類似点その8:撃墜その2-右舷エンジンへの被弾、撃墜
友軍機が敵からの対空砲火を受けて撃墜されてしまう。「スター・ウォーズ」ではルークが飛びながら、レッド中隊長の機が撃墜されデス・スター表面爆発を窓越しに確認するシーンがあるが、「暁の出撃」でも全く同様のシーンがある。
『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(1977年)
ゴールド中隊に続き、2回目に攻撃をかけたレッド中隊隊長機(レッド・リーダー)は、シャフト内に魚雷を入れることはできず、エンジンに被弾しデス・スター表面に墜落、撃墜されてしまう。自機の窓越しからその様子を確認するルーク。
右舷エンジンへ敵機の攻撃を受けるレッド中隊隊長機(レッド・リーダー)
そのままデス・スター表面へ墜落、爆発炎上
窓越しに爆発を確認するルーク
『暁の出撃』(1955年)
地表からの対空砲火を受けてしまった友軍機。そのまま地面に落ちていき墜落、爆発炎上する。ギブソン大佐が友軍機の撃墜を窓越しに確認する。
対空砲火を右舷エンジンにうけ被弾
そのまま地表へ墜落、爆発炎上
窓越しに爆発を確認するギブソン中佐
類似点その9:攻撃成功そして帰投
レッド中隊の攻撃も失敗に終わり、ルークが、ビックスとウェッジの援護をうけながらトレンチへ突入し攻撃をかける。一度失敗したのち、攻撃を再度かけるシーケンスは『暁の出撃』と同じである。
『暁の出撃』では、数回の攻撃と失敗を繰り返し、最後にようやく5回目の攻撃でダム破壊に成功するという構成で物語が進み、ダム破壊の困難さを描く。一方、『スター・ウォーズ』では、レッド隊長の攻撃の後、ルークが攻撃を仕掛け破壊に成功し、緊張感を保ったままスピーディーな物語展開でクライマックスへ盛り上がりをみせる。
繰り返されるトレンチ・ランの様子は「類似点その6」で挙げたのと同じ。
『スター・ウォーズ/エピソード4 新たなる希望』(1977年)
ルークが、ビックスとウェッジの援護をうけながらトレンチへ突入し攻撃をかけ、遂にデス・スターを破壊する。ルークを含めた3機と途中で参戦したミレニアム・ファルコン号は基地へと帰還する。
『暁の出撃』(1955年)
2機の援護を受けて3機で編成を組み、再度攻撃をしかける。攻撃シーンはそして、遂にダムを決壊させることに成功する。3機は次の攻撃目標へ向かう。
まとめ
如何でしたでしょうか。いかに『スター・ウォーズ』が『暁の出撃』の攻撃シーンからヒントを得ていたかがお分かり頂けたかと思います。それにしても、世界中が熱狂したデス・スター攻撃の元ネタが1955年の映画にあるとは。名作映画は名作映画へのインスピレーションを与え、そしてそれが次の名作映画を生むということで、実に面白いです。
また、「スター・ウォーズ」は、これ以外にも1943年のハワード・ホークス監督の『空軍/エア・フォース』、1964年の『633爆撃隊』など第二次世界大戦もののクラシック映画に影響されており、いずれこれらについてもまとめた記事を書きたいと思います。
その後、『ジェダイの帰還』でも同じようにデス・スター攻撃は描かれ、さらに2015年の『フォースの覚醒』でもスターキラー基地の攻撃が描かれますが、敵要塞の弱点である原子炉への困難なピンポイント攻撃を行うという大筋は全く変わっていません。この原子炉を爆破すると連鎖反応が起こるというデス・スターの弱点について、スピンオフである『ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のような映画までできてしまうくらいですから、『暁の出撃』の元ネタは間接的に相当な影響力を持ってしまったわけです。こんなことは、『暁の出撃』でこの攻撃作戦を発案していたバーンズ・ウォリス博士も思いもよらなかったでしょう。
後の『新たなる希望』および旧三部作以後のスター・ウォーズ作品では、戦闘シーンがただのドンパチとなってしまい、アクションばかりが目立ってしまって、実際の戦闘としてのリアリティにかけてしまったように思えます。CGを屈指しても、その核となるストーリーにリアリティがなければ、やはり戦闘シーンとしての真の緊迫感や迫力にかけたものになると思います。その意味で、やはり『新たなる希望』のデス・スター攻撃シーンがこれほど世界を夢中にさせたのは、実際に戦争に実行された作戦、戦術があり、それに基づく映画を忠実にオマージュした構成となっているからだったに他ならないと思います。
やはり、『スター・ウォーズ』はタイトルにWar(それも単数形でなく複数形)がつくだけに戦争映画なのであり、他にもたくさんの魅力的な要素があるものの、戦闘機の空中戦などの戦闘シーンの演出には、戦争映画としてのリアリティ要素を含んだ映画であってほしいと思います。
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