StarWalker’s diary

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暁の出撃(1955年・イギリス)

 1955年公開のイギリス映画、マイケル・アンダーソン監督の『暁の出撃』を紹介します。この映画は、実際に第二次世界大戦中に行われたイギリス空軍によるドイツ国内のダム攻撃作戦を描いた航空戦記映画です。クライマックスの爆撃機中隊による攻撃シーンの特撮は迫力、時間がない中で、不可能に見える作戦をどう成功させるか、作戦実行までに至るまでのストーリーが見どころの映画です。

あらすじ

 第二次世界大戦中、イギリスは連日ドイツ軍からの空襲に悩まされていた。イギリスのバーンズ・ウォリス博士(マイケル・レッドグレーヴ)は、ドイツ国内のダムを破壊し、停電と洪水によってドイツの軍需産業を担うルールエ業地帯に打撃を与える作戦を立案する。作戦遂行のためには大型の爆弾が必要でしたが、そのような爆弾はなく、またそのような大型爆弾を搭載できる爆撃機もない。そこで、小さめの爆弾をダムに密着した状態で爆発させることを発案する。だが、これには低空から爆弾を投下し、水面に跳躍させて(いわば、水切りのように爆弾を水面でスキップさせる)、ダムの壁にぶつけて破壊するしかない。このほとんど不可能に近いと思われる作戦で、軍首脳部も成功の可否を疑っていたが、ウォリス博士は実験を繰り返しながら爆弾設計をしていく。また、ギブソン中佐もウォリス博士の成功を信じ、作戦成功の鍵となる夜間の超低空飛行の訓練を続けていく。そして、作戦実行当日、ギブスン中佐(リチャード・トッド)指揮下、19機の特別爆撃隊は、目標のダムめがけて作戦を実行しに飛び立つ・・・ 

見どころ解説

イギリス空軍による「チャスタイズ作戦」の映画化

  この『暁の出撃』は1955年のイギリスの航空戦記映画で、原題はThe Dam Busters、ダム・バスターズといいます。ダムというのは貯水のためのダムのことで、バスターズというのは破壊する人という意味、すなわち、原題は「ダム爆撃隊」という意味です。

 この映画で描かれるダム攻撃作戦は、「チャスタイズ作戦」と呼ばれ、1943年に実際にイギリス空軍によって実行された作戦です。ギブソン空軍中佐率いる第617飛行中隊に所属する19機のアブロランカスター(イギリス空軍の爆撃機)がドイツにある4つのダムに攻撃をかけました。出撃した19機のうち10機が撃墜されるものの、目標を達成し、ドイツの軍需工場に打撃を与えました。これによって、この第617飛行中隊は「ダム・バスターズ(ダム攻撃隊)」と呼ばれるのです。原題はこの名称から来ています。 

 この映画には原作があり、原作はポール・ブリックヒルの同名小説『暁の出撃』、そしてチャスタイズ作戦の実行部隊を指揮したガイ・ギブソン空軍中佐の自伝『Enemy Coast Ahead』です。ちなみに、ポール・ブリックヒルはあの有名な1963年のアメリカ映画『大脱走』の原作も書いているオーストラリアの作家です。ポール・ブリックヒル自身はオーストラリア空軍のパイロットとして従軍、北アフリカ戦線に参戦しますが、チュニジアで撃墜され捕虜になってしまいます。この時、「スタラグ・ルフト III(第三航空兵捕虜収容所)」に収容された時の体験をもとに戦後1950年に『大脱走』を書きます。そして、1951年に彼が書いたのが『暁の出撃』になります。ただ彼がオリジナルを書いたときには、まだ「チャスタイズ作戦」の秘密事項が開示されていない部分もあったため、映画にあたっては、その部分の詳細を記述したガイ・ギブソン空軍中佐の自伝である『Enemy Coast Ahead』と『暁の出撃』の双方を原作にしています。 

 「Enemy Coast Ahead」というのは、「前方に敵地の海岸線を確認」という意味で、劇中でも北海を超えてオランダ海岸に到達した攻撃隊のパイロットの台詞として登場します。

  この映画を撮ったマイケル・アンダーソン監督は、『暁の出撃』以外に、1956年の『八十日間世界一周』 (ジュール・ベルヌの同名小説の映画化)や『1984』(ジョージ・オーウェルの原作小説の映画化)で有名です。また、自身がかつてイギリス空軍に従軍し、第二次世界大戦中の戦争体験がある人であり、そういうキャリアがあったためか、『暁の出撃』以外にも、1960年代には、『あしやからの飛行』『さらばベルリンの灯』『クロスボー作戦』など航空映画、アドベンチャー映画を作っています。その後、1970年代にハリウッドへ移ってからはSF映画などを結構撮っているのがマイケル・アンダーソン監督です。   

スター・ウォーズ」に影響を与えたクライマックスシーン

   この映画は、実際にイギリス空軍から保管中のアブロ社のランカスター爆撃機を譲り受けて撮影用に改良して使っています。クライマックスのダムの攻撃シーンをはじめ、飛行シーンでは、イギリス国内にあるダム等で、撮影用のランカスター爆撃機を飛ばして撮影しており、このあたりはやはりCGとは違う本物を使った迫力を感じます。

 この映画の撮影監督の一人で特撮を担当したのがギルバート・テイラーです。ギルバート・テイラーはのちに、数多くの有名な映画の撮影監督をすることになりますが、1977年の「スター・ウォーズ」の時も撮影監督をしています。もともと撮影直前に予算削減された「スター・ウォーズ」は、当初の撮影監督であったジェフリー・アンワースに代わっての起用であり、ジョージ・ルーカスとは衝突しまくった彼ですが、そういった経緯もあり、「スター・ウォーズ」のデス・スター攻撃シーンがこの映画のクライマックスのダム攻撃シーンの明らかなオマージュになっています。

 個々のショットの類似、台詞、攻撃計画そのものの構想まで、そっくりそのままです。この二つの映画の類似点は別の記事にまとめていますので、そちらもお読み頂ければ幸いです。

 

www.lakestarwalker.com

 

 まとめ

  前半はバーンズ・ウォリス博士が、攻撃用の新型爆弾をいかに設計し、ダム攻撃を実現するかという問題に、一つ一つ課題をクリアしながら、軍首脳部と関係者を説得していくという問題解決もの、プロジェクトXものの要素が楽しめる映画です。そして後半は、ギブソン中佐率いる攻撃隊とその結束、犠牲をいとわず困難な任務に立ち向かい、確実に実行しようとする軍人兵士達の姿、困難な攻撃を一部始終とその緊迫感を見事に再現したクライマックスが見どころです。

 また、ラストシーンで、作戦を終え帰投した隊員たちが口数なく静かに部屋に戻る姿、作戦を終えたが多大な犠牲を出したことを聞いて涙するウォリス博士、静かに去っていくギブソン中佐の後ろ姿は、仲間に多大な犠牲を出したことに対する哀しさと喪失感を丁寧に描いていており、作戦成功への単純な称賛でなく、戦争の抱える矛盾さを伝えるようなクライマックスの派手さとは対比的な静かなラストになっています。

 この映画は、チャスタイズ作戦とその犠牲となった兵士たちの物語を伝える映画でもありますので、マイケル・アンダーソン監督の『暁の出撃』を、この機会にぜひご覧頂ければと思います。

 ちなみに、同名の邦題で、1970年のブレイク・エドワーズ監督、ジュリー・アンドリュース主演のミュージカル映画がありますが、こちらは全く別物ですのでお間違いのないようご注意ください。 またポール・ブリックヒルの原作小説を読みたい方は、トム・クランシー湾岸戦争を扱った同名小説があるので、こちらもお間違いないようにご注意ください。

 

基本情報:『暁の出撃

[作品データ]
原題: 暁の出撃(『The Dam Busters』)
製作年:1955年
製作国:イギリス
上映時間:124分

[スタッフ]
監督:マイケル・アンダーソン
脚本:ロバート・C・シェリ
原作:『暁の出撃』著者:ポール・ブリックヒル
   『Enemy Coast Ahead』著者:ガイ・ギブソン
製作:ブレイク・エドワーズ 

[キャスト]
マイケル・レッドグレーヴ
リチャード・トッド
ウルスラ・ジーンズ
ベイジル・シドニー
ユアン・ソロン
ロバート・ショウ 他

 

 

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