StarWalker’s diary

映画スター・ウォーズに関する独自の考察、謎解き、分析、最新作のストーリー予想、最新情報を発信するブログ

『スター・ウォーズ』はどこへ向かう?SW製作計画にみるディズニーの思惑

 スター・ウォーズ新三部作はエピソード9が、7月末から撮影開始、そしていよいよ今月29日には『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が日本公開を向かえます。今月20日前後にスター・ウォーズの今後の展開について、ルーカスフィルムが、『ハン・ソロ』に続くスピンオフ作品の製作を休止し、エピソード9に注力することを決定したという噂が出ました。これに関連して、ルーカスフィルムとディズニーによるスター・ウォーズの今後の構想とディズニーの思惑についてまとめました。前回記事からの続きです。

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2019年以降の『スター・ウォーズ』構想

 今年に入ってから『スター・ウォーズ』シリーズの今後の映画企画に関して、かなり様々な情報が飛び交っており、多数のプロジェクトが同時に企画されていることは確かだろう。では、報じられている内容はどこまでが確実なのか?そして、今後のスター・ウォーズはどこへ向かうのか?を一度整理したい。

 まず、ルーカスフィルムが公式に発表している企画は以下だ。

(1)『スター・ウォーズ』 新三部作(エピソード7から9)

 『フォースの覚醒』から始まったレイ三部作で『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』が順番に公開され、現在は完結編であるエピソード9の撮影に向けて進行中という状況。 

(2)スピンオフ作品

 新三部作の発表と同時に、製作が発表されたスター・ウォーズ世界を描く映画作品。当初の計画は3作の製作が予定されていて、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』そして『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が公開された(日本では『ハン・ソロ』が6月29日に公開予定)。残りは1作については、今のところ、オビ=ワン・ケノービを主人公にしたスピンオフとなる予定だが、これについての紆余曲折は前述したので省略する。 

 
(3)ライアン・ジョンソン監督の新三部作

 2017年11月に発表された『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督による現在のエピソード7から9とは別の三部作構想だ。そのうちの最初のエピソードはライアン・ジョンソンが監督することになっている。これらはスカイウォーカー家の物語とは別の三部作となるというのが公式発表だ(Rian Johnson to Create All-New Star Wars Trilogy | StarWars.com)。 

(4)『ゲーム・オブ・スローンズ』製作陣による新SW映画シリーズ

 2018年2月に発表されたゲーム・オブ・スローンズ』の製作総指揮を務めるデイヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスの二人が製作と脚本を担当する新しいSW映画シリーズだ。これはエピソード7から9の三部作、ライアン・ジョンソン監督の新三部作とはまた別のシリーズとなる予定としていおり、いわゆるこれまでの三部作構成のスター・ウォーズ映画とはまた別のものだ。何本から成る映画シリーズを考えているかは不明だが、すくなくともシリーズものということで単発ものではないことははっきりしている(Game of Thrones Creators David Benioff and D.B. Weiss to Write and Produce a New Series of Star Wars Films | StarWars.com)。  

 (5)ジョン・ファヴローによるライブ・アクション・シリーズ

 『アイアンマン』シリーズで有名な映画プロデューサー、映画監督のジョン・ファヴローが手掛けると発表されたのが実写映像作品シリーズだ。これは2018年3月に発表されたものだが、他の2つの映画シリーズとは違う形、ルーカスフィルムはこれを「ディズニーによる消費者直結型のプラットフォーム(Direct-to-Consumer platform)」で提供するといっている (Jon Favreau to Executive Produce and Write Live-Action Star Wars Series | StarWars.com)。

 

 このうち(1)(2)はディズニーがルーカスフィルムを買収した直後に発表されていた計画であり進行中のものだ。そして、(3)(4)(5)はルーカスフィルムが新三部作とスピンオフ2作の後に構想している計画として2017年11月から2018年3月までに次々に発表された。

 ちなみに、補足をすると、ジョン・ファヴローによるライブ・アクション・シリーズの説明に登場する「Direct-to-Consumer platform」とはD2Cと言われるものでサービスの生産者が消費者に直接に価値を提供するビジネスモデルのことだ。

 難しいビジネス用語の説明は置いておいて、つまり具体的には、TVシリーズ、あるいはインターネット配信形式による実写(ライブ・アクション)シリーズものを指している。『スター・ウォーズ』のフランチャイズは実写ものは、映画による映像作品でしか提供されてこなかったわけで、インターネット配信、TVシリーズは、アニメーションでやるというのがこれまでビジネスのやり方だったわけだが、そこに今後はそういったものも新しく実写もやる、というディズニーそしてルーカスフィルムの宣言がこの新しいシリーズの発表ということになる。  

 

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21世紀フォックス買収にみるディズニーの思惑

 さて、少し前置きぐ長くなるかもしれないが、ここでルーカスフィルムを買収したウォルト・ディズニー・カンパニーについて少し復習しておきたい。ディズニーというと、ウォルト・ディズニー・スタジオ、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ、ピクサー・アニメーション・スタジオなど映画製作事業が一番注目されてしまうが、ウォルト・ディズニー・カンパニーというのは巨大な事業体だ。

 まず、ディズニーは1996年に買収したABC テレビジョン・ネットワーク、そしてスポーツ専用チャンネルのESPNを持っているESPNは、もともとABC テレビジョン・ネットワークの持っていたチャンネルだが、ディズニーがABCを買収した時にディズニーの傘下になっている。

 一方、製作事業の方もこれまで順調に拡大していて、2006年にはピクサー・アニメーション・スタジオが、マーベル・エンターテイメントが2009年にディズニーに買収され、そしてルーカスフィルムも2012年にディズニーになったのはご存知の通りだ。

 さて、そして現在、ディズニーが食指を伸ばしているのが21世紀フォックスである。2017年、ディズニーは21世紀フォックスの映画製作部門である20世紀フォックス映画、TV製作部門の20世紀フォックステレビジョンを買収することを発表している。また、映像配信サービス事業を手掛けるHulu(HuluはNBC、ディズニー、そして21世紀フォックスが約30%ずつ株主になっている)の権利のうち21世紀フォックス分も買収する。つまり、ディズニーがHuluの60%を支配する形になるわけだ(Disney is buying most of 21st Century Fox for $52.4 billion)。

ディズニーが目指す消費者直結プラットフォーム

 つまり、ディズニーはこれから何をしたいか?というと、映像配信サービス事業を強くしたいのである。つまり、これこそが、先に紹介した「ディズニーによる消費者直結型のプラットフォーム(Direct-to-Consumer platform)」である。

 ディズニーは、アニメーション製作から始まったわけだが、マーベルやピクサールーカスフィルムなど実写や3Dアニメなどの製作、コンテンツの製作部門を買収して大きくすると同時に、ABCネットワークなどをそれを提供するメディアネットワークを確実に大きくしてきた。

    だが、インターネットのような消費者直結型のサービスに関しては出遅れている。ここで、当然、一番のライバルはNetflix(ネットフリックス)だ。Netflix(ネットフリックス)は現状のシェア自体はHulu以下であったものの、急成長している配信サービス事業者である。

 ディズニーが現在30%の株を保有するHuluは2007年にNBCや21世紀フォックスがベンチャーとして設立したが、そこに少し遅れてディズニーが参加して今の形にいたっている。そして、今回、ディズニーはHuluの株の半数以上を手にいれることにいたった。

 2018年3月14日に、ウォルト・ディズニー・カンパニーは新しく「Direct-to-Consumer and International」(消費者直結と国際展開)を担う部門を立ち上げた。スタジオ・エンターテイメント部門であるウォルト・ディズニー・スタジオ、メディア・ネットワーク部門、パーク&リゾート部門とこれまであった3つの事業部門に加えて新設されるこの部門が、より消費者直結型のサービスによるグローバル展開を担うことになるわけだ(Disney Reorganization Anticipates 21st Century Fox Assets - The New York Times)。

 ディズニーは、MLBが設立した動画ストリーミングサービスを提供するBAMTechの株式取得したり、ディズニー独自のストリーミングサービスを開始し、Netflix(ネットフリックス)でディズニー関連コンテンツの配信契約を2019年に終了することを決定している。

 ジョン・ファヴローによるライブ・アクション・シリーズの発表も、「Direct-to-Consumer and International」(消費者直結と国際展開)部門の立ち上げと同時に、2018年の3月に発表されたものであり、これはSW実写コンテンツを映像配信サービスでやろうとしているディズニーの大戦略の中で計画されたことがわかる。

 SWのブランド力を最大限に利用して自社の事業を戦略的に進めたいウォルト・ディズニー・カンパニーは、インターネット映像配信サービス側にSWを餌にしてファン層を取り込めば、確実にシェアを伸ばせると考えていることは明々白々である。

 

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SW構想にみるディズニーの思惑

 さて、このディズニーの戦略を考えると、最近「スター・ウォーズのスピンオフ映画の一時製作停止」の噂が出たり、それを否定したABCの報道が出たりしている事情が少しわかるかもしれない。

 まず、当然ながら新三部作はエピソード9までは既定路線だ。だが、一つここで確認しておくべきことは、ルーカスフィルムがディズニーに売却されてから製作してきたこらまでの新三部作の3作とスピンオフ2作は、何もルーカスフィルムの社長になったキャスリーン・ケネディの独自の計画ではないことである。

 彼女は、もともと売却前にジョージ・ルーカスが持っていたアイデアを引き継ぎ、形にしているだけだ。ルーカスは会社を売却する際に、新三部作は当然ながら、スピンオフ作品の構想についてもディズニーのキャスリーン・ケネディ、ディズニー会長のロバート・A・アイガーらは相談している(Bob Iger Speaks 'Star Wars' Spinoff Films - Business Insider)。

 一方、新しく発表されたライアン三部作は、ライアン・ジョンソン監督のアイデアキャスリーン・ケネディが気に入ってプロジェクト化したものだ。

 そして、ゲーム・オブ・スローンズ組の映画シリーズは、デイヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスの二人が『ゲーム・オブ・スローンズ』の終了する2019年以降(『ゲーム・オブ・スローンズ』は2019年のシーズン8で終了する)の仕事として、『スター・ウォーズ』に興味を示し、テレビでなく映画を撮りたい二人が希望したものだ‘Star Wars’: ‘Game of Thrones’ Creators to Write New Series – Variety)(そもそも『ゲーム・オブ・スローンズ』も原作を読んだ二人がHBОにドラマ化を提案したことから始まっている)。 

 つまり、ライアン三部作も、ゲーム・オブ・スローンズ組の映画シリーズも、キャスリーン・ケネディは監督、製作スタッフが提案してきた構想をそのまま受け入れているに過ぎない。そして、ジョン・ファヴローのプロジェクトは、完全にウォルト・ディズニー・カンパニー側の思惑により企画されたものだ。

 こう見れば、今発表されているSW計画は、ルーカスフィルムそしてウォルト・ディズニー・カンパニーそれぞれの思惑を双方取り込んだ極めてわかりやすい計画になっていることがわかるだろう。

スピンオフ計画は見直し?

 これまで新三部作とスピンオフ2作を進めてきたルーカスフィルムは、ここまではディズニー側から注文を付けられることなく比較的自由に製作をしていた。だが、これは、新三部作とスピンオフ2作が、ディズニーがルーカスフィルムを買収する際に、ジョージ・ルーカスの構想を引き継いで、ルーカス、キャスリーン・ケネディ、ディズニーの三者で決めたことだったからだ。

 だから、製作に対してディズニーも特に文句は言わず、ルーカスフィルムに映画を作らせればよかった。そして、キャスリーン・ケネディは、ジョージ・ルーカスの描いていた構想を非常に大切にしており、彼女はそれに忠実に新三部作とスピオンオフを作ってきた。そもそも、キャスリーン・ケネディを社長にすえたのはジョージ・ルーカスその人のご意向であり、彼は自分の構想を実現してくれる人選として彼女を指名した。

 だが、この既定路線の新三部作とスピンオフ2作の製作がほぼ終了した今は違う。『最後のジェダイ』での評価や、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の映画興行収入が芳しくなかったことで、ディズニー側も何かしら考えざるを得ない状況になったルーカスフィルムも、これまで以上にウォルト・ディズニー・カンパニーの声は聞かざるを得なくなる。なぜなら、創造者たるルーカスはもう他人だからだ。

 これは、ルーカスフィルムは「スピンオフ第3弾を単発でやって本当に儲かるのか?」とディズニーに言われるということだ。そして、「もし儲からないならスピンオフ映画は止めた方がいいのではないか」という意見も少なからず上がった可能性がある

 映画で確実に利益が出ているのは三部作だ。三部作であれば、最初から三作で完結するのが分かっているので、継続的にファンが劇場に足を運ぶ。この点がスピンオフと異なる点だ。そしてなにより、これは今までの『スター・ウォーズ』構成と同じ形でファンが一番慣れている自然な形だ。確かに、三部作の最初と2作目では興行収入は変わってくるが、初回でいいものが作れれば、ファンは基本的に3作すべてを見に劇場に来るだろう(『最後のジェダイ』の例はあるので、今後どうなるかはわからないが)。 

 これはあくまでも私の推測に過ぎないが、こういった検討の中で、当初スピンオフで劇場公開型の映画として考えられていたものも、スピンオフ映画が単発の映画として劇場で儲からないのであれば映画は三部作だけにすることや、ディズニーが目指したいインターネットなどの映像配信の方で、実写映画としてスピンオフをやるという案も出ているのではないか?と予想する。あるいは、スピンオフにしても単発物ではなく、ハン・ソロのようなあるキャラクターのスピンオフ作品を連続シリーズで製作する形も考えられるだろう。

まとめ

 ウォルト・ディズニー・カンパニーは、新三部作とスピンオフ2作品で、開始した新スター・ウォーズは、最初のうちこそ自由に製作を任せていたが、ここにきてルーカスフィルムの製作する方向性と収益性を疑い始めていることは間違いないだろう。

 そして、ディズニーの考えるメディア戦略もあって、2020年以降のSW映画もこれにのせようという思惑もあり、今後の行方は全体的に見直しがかかっているのではないだろうか。もしかすると、そのような動きがこの「スピンオフ作品の製作休止」の噂の裏側にあるのではないかと感じる。

    本当の意味でディズニーが、スター・ウォーズをどうするつもりか注目していくべきはここからだろう。ディズニーによるスタ―・ウォーズ支配は、まだジョージ・ルーカス時代からの転換期を終えたに過ぎない。ディズニーが、ディズニーのディズニーによるディズニーのためのスター・ウォーズを作るのはここから始まるといっていい。

    そして、それはジョージ・ルーカスの指名であったキャスリーン・ケネディにかわり、ディズニーの息のかかった人間をルーカスフィルムに送り込むということかも知れない。ディズニーにとってはファンの反発や興行的な理由を表向きの理由に力を行使する機会は揃っている…