StarWalker’s diary

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太平洋奇跡の作戦 キスカ(1965年・日本)

  1965年公開の東宝映画、『太平洋奇跡の作戦 キスカ』を紹介します。

 これは太平洋戦争中に実際にあった「キスカ島撤退作成」を題材にした映画です。1942年に旧日本海軍が、アリューシャン列島のアメリカ合衆国アッツ島キスカ島を占拠しますが、アメリカ軍の奪還作戦が始まり、アッツ島は玉砕、キスカ島は孤立無援の中、キスカ島守備隊5000名はアメリカ軍の前にこのままでは全員玉砕しかない、という状況になってしまいます。そこで、日本海軍の第五艦隊がキスカ島撤退作戦を開始します。

 このキスカ島撤退作戦は「奇跡の作戦」と呼ばれています。なぜかというと、日本軍はアメリカ軍に全く気付かれずに、しかも守備隊全員を無傷で撤退させることに成功したからで、これは世界戦史上稀にみる撤退行動の成功例だと思います。

 『太平洋奇跡の作戦 キスカ』は、この奇跡と呼ばれた撤退作成が成功するまでの緊迫のドラマを見事に描いた日本の戦争映画の中でも名作です。

 

あらすじ

  昭和18年(1943年)5月、アリューシャン列島のアッツ島守備隊約2700名が玉砕。同列島のキスカ島は、米軍に制海・制空権を握られた戦域の中で、完全に孤立してしまう。敵軍上陸が迫り、連日、米軍の砲爆撃が続く中、玉砕を覚悟するキスカ島守備隊。そのころ、海軍軍令部は、第五艦隊司令長官川島中将(山村聡)の説得で、キスカ島守備隊約5000名の救出を決定。川島中将は、作戦実行を第一水雷戦隊司令官の大村少将(三船敏郎)に託す。

 川島中将と大村少将は、同島海域に発生する濃霧に紛れて水雷戦隊を高速で、キスカ湾内に突入させ、守備隊を収容する作戦を立てる。作成成功のカギは、濃霧の発生のタイミングとそれに乗じたキスカ島への接近と、キスカ湾への突入、そして守備島約5000名をいかに素早く迅速に収容して、海域から離脱するかであった。

 かくしてキスカ島撤退作戦が開始された・・・ 

 

見どころ解説

大村少将の戦術指揮 

 この映画の最大の見どころは、水雷戦隊の司令官である大村少将(三船敏郎)が撤退作戦を成功に導くために、慎重な判断と大胆な決断を重ねていく、そしていつ米軍に発見されるかもわからない、その刻一刻の緊張感が最大のドラマになっています。

 撤退作戦自体が成功するのは、史実を知っている方ならご存知なのですが、最後までどうなるかという緊張感が続きます。濃霧の中でキスカ島に向かうのが、味方の艦艇にとっても相当な危険なわけです。無事に救援部隊がキスカ島に辿り着くのか、というところが最大の見どころです。

 この映画では、敵艦隊(アメリカ軍)の動きは全く描かれていません。下手に史実を描こうとして両面の動きを描いてしまうと、ストーリーが一直線でなくなるがために、感情移入もしづらいし、緊張感が出てきません。この映画はそうではなく、キスカ湾への突入と撤退が成功するかしないかというクライマックスに向かって一直線に物語が進みます。そのため、観客の側も劇中の艦隊司令部と同じように、果たして敵が出てくるのかどうか、濃霧の中での作戦が成功するのか、という緊迫感を感じます。 

円谷特撮による艦隊シーン

 もう一つの見どころは、やはり円谷英二の特撮でしょう。キスカ島に向かう救援艦隊のシーンは見事です。艦隊のミニチュアを使った撮影ですが、実写かと思うぐらいに実にリアルそして艦隊の重厚感と緻密な動きが良く再現されています。やはり、ミニチュアである以上、プールで撮影しているため、実際の艦とは水面の波の様子が違うので、見慣れている方は、ミニチュアだな、というのは気が付くかもしれませんが、そうでなければ気にならないくらいです。

 物語終盤、いよいよキスカ湾へ突入を行うシーンでは、これは史実でもそうなのですが、敵艦隊に悟られないように島の周囲に沿って、西側から北へ迂回してキスカ湾に迫ります。ここで、島と小島、水面に出ている岩の間のぎりぎりのところを潜り抜けて艦隊が一列に進むというシーンがありますが、艦橋に立つ三船演じる大村少将と参謀たちの息詰まる艦隊の指揮ぶりの演技と、特撮シーンが見事にマッチしていて作戦の成功の是非への緊張感を高めてくれる実に見事に仕上がっています。

東宝特撮による戦争映画

 1960年代の東宝戦争映画は、やはり三船敏郎の存在そして円谷英二の特撮、この二つなくして語れません。円谷英二というと、ゴジラウルトラマンの人のイメージの方が圧倒的に強いと思いますが、もともと彼の特撮の原点は、戦時中に海軍省の指示で作ったプロパガンダ映画にあります。

 1940年の『海軍爆撃隊』で、はじめて彼はミニチュアの飛行機で爆撃シーンを撮ります。その後、『燃ゆる大空』『南海の花束』で同じように特殊撮影を手掛けて、そして戦時中の彼の特殊撮影の一番の代表作である1942年の『ハワイ・マレー沖海戦』が映画の大ヒットとともに一躍、彼の特殊撮影が有名になります。

 彼自身が、大変な飛行機好きで、小さい頃は飛行機の模型ばかり作っていた人です。そして飛行機乗りに憧れて、操縦士になるために学校に入りますが、不運が重なって映画界に入った人です。ですから、ミニチュア飛行機を使った特撮にはこだわりがあったというか、自分の飛行機乗りになれなかった分の情熱を、そこに注いだんでしょう。

 三船敏郎については、言うまでもないでしょう。この人の男気溢れる軍人としての貫禄と存在感、黒澤映画の野性味ある侍のイメージとはまた違う、堂々とした風格が魅力を放っています。三船敏郎が海軍軍人を演じる作品は、無数にありますが、私としてはこの大村少将はかなり気に入っています。史実の木村少将は、写真を見ればわかるように、顔から飛び出るくらいのカイゼル髭がトレードマークの軍人でしたが、この映画では、やはり三船の魅力を際立たせるためか、カイゼル髭はなく、貫禄やっぷりの三船提督になっています。

 

木村少将とキスカ島撤退作戦

  史実で本作戦を指揮したのは木村昌福少将は、旧海軍の軍人の中でも堅実なベテランの提督で、敵味方を問わず人命を絶対におろそかにしない姿勢、戦場における勇猛果敢さ、そして同時に冷静沈着で適確な判断力をもった将ということで評価の高かった人物です。

 映画でも描かれていますが、キスカ湾突入にあたっては、一度目は、キスカ島近海まで近づきながらも、濃霧が晴れつつある状況を危険と判断し断念。二度目も、敵艦隊との遭遇を避けるため、直接湾内へ突入せずに、島の北側を迂回するという慎重に慎重を重ねた上での隠密行動を確実に実行に移し、守備隊全員を無傷で撤退させました。 

 木村少将の艦隊が二度目にキスカ湾に突入した7月29日ですが、その前の26日にアメリカ艦隊は、濃霧の中でレダー虚像を誤認した中で一方的な砲撃を行っていました(当然、日本艦隊に被害はなし)。この結果、敵司令官のキンケイド中将は日本艦隊は残滅したと確信していまい、キスカ湾の前日29日に、補給のため海上封鎖を解き、哨戒用の駆逐艦も含めて艦艇を後退させています。よって木村少将の艦隊が突入した時は、敵艦隊は周辺にいませんでした。翌30日に、アメリカ軍は海上封鎖を再開します。

 突入した29日に限って、敵艦隊がいなかったのは幸運としか言いようがありませんが、木村少将が濃霧に隠れて撤退作成を実施するという一貫した作戦指揮は素晴らしく高く評価されています。特に一度目の出撃時に引き返すという決断は簡単にはできないでしょう。あの時、無理に突入していたら敵艦隊に遭遇していたのは間違いなく、無理を通さずに機をうかがうという判断ができたからこそ、幸運も重なりこの奇跡を成しえたのではと思います。また、この映画では触れられていませんが、濃霧で航行できるよう電探、逆探を装備した艦艇を配備したり、敵が艦をアメリカ艦と誤認するよう偽装工作を行うなど、木村少将の用意周到な作戦準備がありました。

 連合国軍(アメリカ軍だけでなくカナダ軍を参加している)は、その後予定通り約35000名もの兵力をもってキスカ島への上陸作戦(コテージ作戦)を決行しますが、上陸してから島に日本兵が一兵もいないことに気が付いた上、日本兵が徹底抗戦して来るに違いないという緊張状態から、上陸した連合国兵の同士討ちが発生し、122名が戦死するという有様でした。  

補足

 山村聡が演じる第五艦隊司令官は、映画では川島中将となっていますが、実際には河瀬四郎中将という方です。映画の中では、川島中将と大村少将が海兵同期という設定で、作戦実行にあたって川島中将が、大村を推薦、ラバウルから幌筵(千島列島の島で当時、北方方面の前線基地)に大村少将が第一水雷戦隊司令官として着任する、となっていますが、これは脚色です。実際には、河瀬四郎中将は海兵38期で、木村少将(海兵41期)とは同期ではありません。また、木村少将が第一水雷戦隊の司令官になってのも前任の森少将が脳溢血で倒れてしまったための人事で、キスカ島撤退作戦が行われる6月より前の4月にすでに、木村少将は第一水雷戦隊司令官を拝命しています。  

 

まとめ

  撤退作戦をモチーフにした戦争映画は、実際に成功例が少ないこともあり、第二次大戦におけるヨーロッパ戦線でのダンケルクの戦い(映画化は今年公開のクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』を除いて過去2回されており、1958年のイギリス映画『激戦ダンケルク』、1964年のフランス=イタリア合作映画『ダンケルク』がある)くらいしかありません。また、キスカ島撤退作戦を描いた映画作品は、これ一本だけしかないので、戦いの記録を後世に伝える意味でも貴重な作品です。『太平洋奇跡の作戦 キスカ』ぜひご覧ください。 

  

基本情報:『太平洋奇跡の作戦 キスカ

[作品データ]
原題: 太平洋奇跡の作戦 キスカ
製作年:1965年
製作国:日本
配給:東宝
上映時間:104分

[スタッフ]
監督:丸山誠治
脚本:須崎勝彌
製作:田中友幸、田実泰良

[キャスト]
三船敏郎
山村聡
中丸忠雄
稲葉義男
田崎潤
児玉清
土屋 嘉男
藤田進
平田昭彦  他 

 

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