1977年に公開され映画史上に輝くシリーズの記念すべき第一作『スター・ウォーズ/新たなる希望』。『スター・ウォーズ』は当時ジョージ・ルーカスの妻であったマーシャ・ルーカスと、ポール・ハーシュ、リチャード・チュウらが編集を担当し、第50回アカデミー賞で編集賞を受賞しています。今回は以前の記事の中で簡単に紹介したように、この映画を上映開始からの時間ごとに各シーンを分割してその構成を分析して見えてくる緻密な物語の進行、編集、構成を考察して紹介します。
《!以後、『新たなる希望』のネタバレ含む。未鑑賞の方は読まないでくださいね》
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はじめに
以前のマイ・スター・ウォーズ・ストーリーの記事(Lake Starwalker:My Star Wars Story /Episode III 新たなる世界 - StarWalker’s diary)の中で簡単に触れたが『スター・ウォーズ』は実にその編集が見事にできた映画になっている。
『スター・ウォーズ』は当時ジョージ・ルーカスの妻であったマーシャ・ルーカスと、ポール・ハーシュ、リチャード・チュウらが編集を担当し、第50回アカデミー賞で編集賞を受賞している。
マーシャ・ルーカスは、『アメリカン・グラフィティ』でアカデミー賞にノミネート、その後マーティン・スコセッシ監督の作品の編集を手伝った当時有能な編集技師の一人だったが、『帝国の逆襲』『ジェダイの帰還』で夫のジョージと一緒に仕事をした後、残念ながら離婚し、その後は、編集の仕事から遠のくことになる。残りの二人は現在も編集技師として活躍していることを考えると、複雑な気持ちになる悲しい話である。
ともあれ、このアカデミー賞編集賞を受賞するほどの『スター・ウォーズ』の編集とはどのようなものなのか、『スター・ウォーズ』の時間分析として、その物語の時間構成を分析、考察してみようと思う。
2時間に詰められた起承転結の構成
最初に断っておきたいが、現在、『新たなる希望』は特別編以降、リリース版によってさまざまな版のものが流布しており、以降に述べる時間分析は当てはまらないものもあるので、以下の時間分析は、あくまでも劇場公開版に基づくものであることを予めご了承頂きたい。
『スター・ウォーズ/新たなる希望』は、実に編集のリズムの見事な作品だ。映画の上映時間は121分でぴったり2時間になっている。そして、この映画を30分毎に時間分割して考え、さらにその間を10分毎に分割してみる。
すると、四部構成の起承転結の節にあたるのは、つねにオビ=ワンとの関係が描かれており、四部構成の一つ一つが3要素から構成される時間配分になっているのがわかる。つまり序破急、序破急のリズムで起承転結が刻まれ物語が進行するのだ。
文章だけではわかりづらいので下に表でまとめたので、表をを参照しながら以下の記事を読んで頂ければと思います。
開始10分:ドロイドの喧嘩
開始から10分の間は、レイア姫の乗る宇宙船とスター・デストロイヤーの追跡劇とそれにつづく戦闘シーンが続く。物語開始ちょうど10分の時点で、宇宙船を脱出して惑星タトゥイーンに降り立った二人のドロイドが口論になり分かれるシーンになる。
開始20分:ルークとドロイドの出会い
主人公のルーク・スカイウォーカーが登場するのが物語開始15分を過ぎたところからになる。開始20分では、ルークがC-3POそしてR2と出会い、自己紹介をする場面にあたる。
ルークは、そこで彼らが反乱軍から逃れてきたドロイドである話を聞く。砂漠の惑星で農夫をやっていたルークの運命が大きく変わりだす。
開始30分:オビ=ワンとの出会い
開始から30分、全体の1/4まで進んだ所で、サンド・ピープルに襲われて気を失っている主人公ルーク・スカイウォーカーは、かつてのジェダイ騎士の生き残り、オビ=ワン・ケノービと出会う。オビ・ワンが気絶しているルークを起こすシーンで、映画開始からちょうど30分になる。
物語の登場人物の紹介が描かれ、物語のカギとなるオビ=ワン・ケノービと出会うここまでが、起承転結の四部構成で言えば、ここまでが「起」となる。さらに、ここまでの起の中身も、10分ごとに、ドロイドとレイア姫の登場、ルークとドロイドの出会い、ルークとオビ=ワンの出会いの3要素が順番に描かれているという構成。
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開始40分:オーウェン夫妻の死
開始から40分は、ドロイドを追ってきたオーウェン夫妻を殺害したあと、自宅に戻ったルークが彼らの死を知るという場面だ。C-3POそしてR2、そしてオビ=ワンと出会ったルークの前に、新しい運命の扉が開くが、それはこれまで彼を支えてくれた育ての親を失うという犠牲を伴うものだった。
ここまで物語開始から1/3。ルークの登場、カギとなる登場人物である二人のドロイド、そしてオビ=ワンとの出会い、オーウェン夫妻との別れの4つの要素が描かれている。もう一人のカギとなるレイアには出会っていないが、少なくともルークはホログラムで彼女の存在を知っている。
映画の三幕構成で考えた場合、ここまでが「設定」にあたると考えていいだろう。第一幕では、物語の設定が描かれ、主人公の行動、存在の目的が示されるが、この場合、ルークが「亡き父のようなジェダイの騎士になる」という決意をオビ=ワンに宣言することで、物語の進む方向が定まる。
開始50分:ファルコン号出発
ここから三幕構成のうち第二幕である「対立」に入っていく。物語開始40分から50分の間は、ハン・ソロとチューバッカと出会い、いよいよルークが惑星タトゥイーンからの宇宙へ飛び立つという旅たちの序章に当たる。
物語の進行上は、レイア、ドロイド、オビ=ワンがカギとなる登場人物であって、ハンとチューバッカはこの時点ではまだあくまでも脇役だ。主要な登場人物が、起承転結の起、あるいは三幕構成の第一幕で紹介されたのに対して、ここでハンとチューバッカが紹介される展開は、起承転結の承、第二幕に属するものと位置付けられる。
特別編では、この直後にジャバ・ザ・ハットとハンのやり取りが追加されている。
物語の構成から考えれば、ハンとジャバのエピソード自体は、サブプロットであり、グリードとハンの話で十分で、削除したほうがあきらかにリズムがよいため、公開版から削除したのは正解だったと思う。余談だが、マーシャ自身は編集上のセオリーから考えれば削除したほうが良いことを承知しながらも、ハリソン・フォードの魅力が一番出ている場面で、削るのが惜しいと考え、ジャバ(当時は、まだ人間キャラ)とのシーンを最後まで残すかどうかマーシャ・ルーカスは悩んだようだ。
開始60分:オビ=ワンからフォースを学ぶ
全体121分の折り返し、開始から60分にあたるのが、ミレニアム・ファルコン号でオルデランに向かうルークが、オビ・ワンから船内でライトセーバーの稽古を教わる場面となる。
そして、ルークが「何かを感じました。見えたような気がしたんです」と言い、オビワンが「それが新しい世界への第一歩だ」と答える。
そして、そのすぐ直後に、ファルコン号は、超空間から離脱するシーンへ移り、後半のデス・スター内部での戦いからクラマックスのデス・スター戦へ進んでいく。
この映画の前半、ルークらがデス・スターに捕まるまでは、ひたすら砂漠の惑星での物語だが、後半は、デス・スター内の白兵戦、ファルコン号vsTIE戦闘機、デス・スター攻撃と、バトルシーンが続く。つまり、田舎の少年が故郷の惑星を飛び出すまでの前半と、彼が帝国と戦うのが後半という形で、きれいに分かれていることがわかる。
起承転結の四部構成で言えば、ここまでが「承」となり「起」で描かれたオビ=ワンとの出会いから発展し、二人が師弟関係を築き、ルークの成長が描かれる。
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開始70分:監房ブロックに侵入
起承転結の四部構成で言えば、ここからが「転」となる。
開始60分から70分の間では、ミレニアム・ファルコン号がデス・スターに捕捉され、ルークらがいよいよ帝国軍を戦うことになる。物語開始70分の時点で、ルークとハン、そしてチューバッカがレイア姫救出に向かう。オビ=ワンは単身、トラクター・ビームの電源解除に向かい、自分も一緒に行くというルークに対して、オビ=ワンは「君には君の運命がある」と諭す。
ここで、ルークはオビ=ワンに頼らず、自らの意思でレイア救出を決断し、行動する。主人公ルークがオビ=ワンから独立して何かを成し遂げようと行動する主人公の自立が描かれる。
開始80分:ゴミプレス装置で危機一髪
開始70分から80分は、ルークとハンによるレイア姫の救出が描かれる。窮地を脱出したかに見えたが、ゴミプレス装置の中で再び危機をむかえる。
物語開始60分から90分までの間は、デス・スターの内部での戦いが描かれているが、この30分のうち最初の10分は、ファルコン号がトラクタービームに捕捉され、コントロールルームを占拠、レイア姫救出に出かけるまでの「序」にあたる。その次の10分間は、監房ブロックでレイア姫を救出しダストシュートに逃げこみ危機をむかえるまでの「破」。そして、最後の10分間が、ダストシュートから脱出し、デス・スターを脱出するまでの「急」となり、この30分の間の時間配分も10分毎で見事に三幕で構成されている。
開始90分:オビ=ワンの死
開始から90分の場面だが、これは、オビ・ワンの死からルークがデス・スターから脱出した後、ファルコン号の中で、オビ・ワンの死を悲しむルークにレイアが寄り添う場面になる。
開始60分から90分まで映画全体の1/4で、ルークは、自らの意思で帝国との戦いに初めて身を投じ、レイア姫を救出する。だがその一方で、彼を支えてきたメンター、師匠を失うという二つの大きな体験をすることになる。
起承転結の四部構成で言えば「転」となり、三幕構成で言えば、ここまでが「対立」であり、第一幕の「設定」で描かれた主人公の行動の目的に対して障壁と戦う第二幕となる。
第二幕の終わりでは、主人公が一番追い詰められもっとも困難な状況に陥るのが物語のセロリーだが、ルークもまた、唯一頼りにしていたオビ=ワンの死にぶち当たる。 第一幕の「設定」で描かれたルークの行動の目的は、「亡き父のようなジェダイの騎士になる」ことだったが、ここで彼は師であったオビ=ワンを失うことで、この行動の目的に対する最大の障壁に直面する。
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開始100分:ルークの出撃
開始90分以降は、起承転結の四部構成の「結」三幕構成で言えば第三幕である「解決」に入り、物語の最終幕で主人公の行動の目的に対する答えとその解決が描かれる。
物語開始100分にあたるシーンは、ルークの出撃シーンだ。一度、ハンと別れたルークは、レイアのキスを受け、X翼戦闘機に乗り込む場面。ここから最後まで、物語のクライマックスである「ヤヴィンの戦い」が描かれる。
「結」の構成は、ヤヴィンの秘密基地への到着からルークの出撃まで。ルークの出撃から後述するレッド・リーダーの死まで、そしてルークのデス・スター攻撃と勝利という3要素で構成されている。
それぞれの要素は、ほぼぴったり10分すつの時間配分で序破急の呼吸をつくり、最後のクライマックスのルークの攻撃と勝利に向けて盛り上がるリズムを生み出している。
開始110分:レッドリーダーの戦死
物語開始100分から110分までは、ルークは戦闘に参加するが、他の反乱軍パイロットの活躍が中心に描かれ、ゴールド・リーダー、レッドリーダーが攻撃に向かう。ここでのルークは、この映画で唯一脇役を演じることになる。ルークはあくまで反乱軍と帝国軍の戦いに参加している一人のパイロットという立ち位置になる。先に紹介した、結の中の破にあたる部分になる。
物語が最終局面に向かって大きく動くのが、物語開始からちょうど110分のところで、ここでトレンチ・ランの攻撃で、レッド・リーダーの攻撃ぐ失敗し彼が戦死する。
残るはビックス、ウェッジ、そしてルークの3機となり、いよいよルークが起死回生の攻撃を仕掛ける。物語は結の中の最終幕、序破急の急にあたるクライマックスに突入していく。
そして、ルークが一人、トレンチ・ランでターゲットの攻撃にむかい、デス・スター攻撃と勝利というクライマックスをむかえる。
開始117分:王座の間~エンドロール
ハンが戻ってきたことも手伝い、デス・スターを見事に破壊したルーク。物語は王座の間でのメダル授与式の大円団をむかえ締めくくられる。起承転結の最後の結の締めくくりだ。
三幕構成で考えれば、「設定」で示されたルークの行動の目的「亡き父のようなジェダイの騎士になる」についての解決が示され、物語が幕を閉じる。
また、四分構成でとらえると、起でオビワンと出会い、承でルークはオビワンからはフォースについて学び、転でルークはオビワンと別れて、結でルークはフォースとオビワンの導きによりデス・スターを破壊するという起承転結となる。
こう見ると非常に緻密でロジカルな構成になっているのがわかる。『スター・ウォーズ』は、反乱軍と帝国軍の戦いではあるが、物語の軸となるのは、田舎少年のルークが宇宙に憧れ、巨悪と戦い勝利する少年が英雄になる成長物語であり、そこには、ルークとオビ=ワンの物語が軸にある師弟の物語であり、ルークが亡き父の跡を継いでジェダイになるために最初の物語であることがわかる。
厳密にいえば、ルークの物語はここでは終わらず続くことになるが、「スター・ウォーズ」旧三部作全体の構成が『新たなる希望』を三幕構成の第一幕「設定」とし、『帝国の逆襲』を第二幕「対立」、『ジェダイの帰還』を第三幕「解決」とする三部作構成となるわけだ。
そして、物語の主題、ルークが亡き父のようなジェダイの騎士になるという物語は、ルークが『ジェダイの帰還』で放つ台詞で、最終的な主人公の「解決」が示される。
僕はジェダイだ。かつて父がそうであったように。
まとめ
こうあらためて整理して見ると『新たなる希望』で示された、主人公ルークの「亡き父のようなジェダイになる」という行動の目的は、しっかりと三幕構成にしたがったセオリー通りに『ジェダイの帰還』でその解決が示されており、その間にあたる『帝国の逆襲』も、これに対する対立、すなわち目的に対する最大の障壁にぶつかる主人公を描いた三幕構成に仕上がっている。
父のようなジェダイを目指していたルークにとって、その父がジェダイを殺した悪のシス卿であったことは、主人公の目的に対する最大の障壁になる。
ヴェイダーがルークの父親である設定は、単なるサプライズや物語の捻りでなく、主人公の目的に対する最大の障壁として、その意味では非常に必然的な、設定である。
スター・ウォーズが現在の神話と呼ばれ、ある意味、クラシック、古典で本格的な映画である理由は、このような物語の構成があるからに他ならない。
「スター・ウォーズ」というコンテンツが巨大なフランチャイズになってしまった現在は、スピンオフをはじめ様々なものが派生してきたわけだが、最初はすべてここから始まったと考えると、何やらこの映画の持っている魅力の側面の一つをより深い感慨とともに理解できるような気がする。